TRUNK SHOW #02

丹嘉 black label

伏見人形を知っていますか?
伏見人形は京都、伏見稲荷大社の近くで作られる土人形です。桃山時代から続く郷土人形ですが、現存する窯元はただ1軒、「丹嘉(たんか)」のみ。

地域産品を蒐集する中で伏見人形に出会った私たちは、素朴でユーモラス、その隙だらけの姿に完全にノックアウト。PASS THE BATON MARKETで「パスザバトンの蒐集」と銘打って伏見人形を大々的に展示、販売しました。そしてこの度、満を持して真っ黒に塗りつぶしたPASS THE BATONオリジナルの伏見人形「丹嘉 black label」をリリースしました。

丹嘉八代目、大西貞行さんへのインタビューを元に伏見人形のあれこれについてお伝えします。

BACKBONE

すべての土人形は
伏見に通ず!

伏見街道沿いにある丹嘉の工房兼ショップ。こちらを向いて座る狛犬が目を引く

伏見街道を進むと趣のある朱色ののれんが見えてきます。ここが、伏見人形の唯一の窯元「丹嘉」の工房です。

「伏見人形が成立したのは桃山時代末から江戸時代初期ごろと言われています。伏見の稲荷山には伏見稲荷大社がありますが、当時は全国各地から参詣者が後をたたなかったそうです。稲荷山自体が信仰の対象ですので、その山の土を使って作られた土人形で五穀豊穣を祈願したのが始まりと言われています」(大西さん)

丹嘉八代目、大西 貞行さん

京都・伏見では粘土が産出されたため、古くから土師器(はじき)と呼ばれる土器が作られていたそうですが、伏見稲荷大社への参詣が盛んになると次第に土人形が作られるようになります。それが子どもの玩具として人気を博したのだそうです。たしかに、この可愛らしさですから、子どもに買ってあげたくなりますよね。わかります。

「土人形は全国で90種類以上ありますが、伏見人形の系統でないものはないと言われています。土人形の元祖ですね」(大西さん)

江戸時代、京都を通る旅人や商人が、伏見人形を日本各地に伝え、それが各地の土人形や郷土玩具の原型となったそうです。なんだか、植物の種が風にのって広がり、各地で育っていくようで、文化も自然も一緒なんだなと妙に納得してしまいます。

たった一つだけ?
伏見に残る窯元

「我々の窯が始まったのは寛延年間で270年ぐらい前ですから、おそらく伏見人形作りが隆盛していた頃にできたと思われます。 うちの先祖は丹波から出てきていたので、もともとは「丹波屋」と名乗っていて、四代目の嘉助さんの頃、「丹波屋嘉助」で「丹嘉」となりました」

江戸時代末頃最盛期を迎えたと言われる伏見人形ですが、明治に入ると生活様式の変化、市電の開通による物流の変化などの影響をうけ、太平洋戦争が始まる頃には丹嘉以外の窯元はほとんどが廃業してしまったそうです。

「江戸後期の最盛期には50軒ぐらい窯元があったそうですが、私が認識した頃、50年前には既に2軒ぐらいになっていて、今はうちだけになっています」(大西さん)

たった一軒……。伏見人形を見ていると、大西さんがこのお仕事を未来につなげていってくれることを心から願ってしまいます。こんな人形、世界を探してもなかなか見つからないはずだから。

ペンギンの首って
こんなに曲がるんだっけ?

「伏見人形のモチーフは稲荷大社のキツネをはじめ、干支、招き猫やお多福などの縁起もの、歌舞伎などの当時の流行りものなど様々です」(大西さん)

伏見人形の魅力の一つは造形です。現在残っている原型は2000種ほどで、どれもユーモアのあるフォルムです。丸っこくて愛らしかったり、ちょっとお腹が出ていてメタボだったり、独特の面白さがあります。

「デフォルメというか、ちょっとユーモラスな顔をしていて、これは本当にもう昔の人の造形力といいますか、デザイン性なんですよね。 それが土型や記録などを通じて『残っている』のは本当にありがたい話です。何百年前の人も、この顔を描いていたんだなとしみじみ思うんです」(大西さん)

京都に水族館ができた時に作られた親子ペンギンの人形

こちらは耳かき犬のパンダバージョン、同じ型でも絵付けで表情がかわる

そう語る大西さんは、現代版の伏見人形作りにも取り組んでいらっしゃいます。

「伏見人形は昔から、その時に流行していることや最新のニュースをモチーフに取り入れてきました。それに倣って昔の人が今、人形を作るとしたら何だろう? って考えてできたのがこのペンギンです。その時、京都に水族館ができたから『これにしよう!』と思って。シンプルに可愛いですし」(大西さん)

まさかのペンギン! ペンギンの首ってこんなに曲がるんだろうか? というくらいデフォルメされた造形に驚いてしまったけれど、たしかにシンプルに可愛い……。

RELIGHT

黒で塗りつぶすと
逆に見えてくる

丹嘉の伏見人形の魅力は「造形」と「彩色」だと思いますが、そのうちの「造形」に焦点をあてたのが「丹嘉 black label」です。思い切って黒に塗りつぶしてみる。すると、隠れていた造形の美が浮かび上がってきます。

シルエットのようなその姿を見ていると、「この人形は何をしようとしているんだろう? 」「右手に持っているのは何?」 と想像が膨らみます。黒なのに想像の余白が生まれる、不思議です。

郷土玩具ってやはり玩具なので、鮮やかな色で彩色されているものが多く、置物として飾ると、可愛らしくなるもの。しかし、このシリーズは黒一色なので、飾るとどこかコンテンポラリーな雰囲気が漂います。

黒になると表情が曖昧になり、自然とフォルムに目が向くように。黒虎の方が目が大きくなったように見える

人形のモチーフは羽織猫や座りとら蛙など合計10種。モチーフは同じでも光沢あり、マットなどテクスチャーが違うものも登場します。質感によっても見え方が変わるので、そんな細かいところまで見ていただければ幸いです。

photo / oana, kuroda
text / nagai

LINE UP

BUY IT HERE

PASS THE BATON MARKET
vol.17で見つけてください

2024.12.14 ~ 15

PASS THE BATON MARKETは企業やブランドの倉庫に眠っていた規格外品やデッドストックアイテム、知られざる職人の技や伝統工芸などの文化に光を当てる一風変わった蚤の市です。丹嘉 black labelは PASS THE BATON MARKET vol.17、2024.12.14〜15 @ KOKUYO SHINAGAWA THE CAMPUSで限定販売致します。是非会場でご覧ください。