

伏見人形-丹嘉 編
Nの偏愛
世の中には、特定の物事にひとかたならぬ愛情やこだわりをもった「愛好家」と呼ばれる方たちがいます。自分が全く知らなかったモノでも、それを熟知する方の独断と偏愛に満ちたお話を聞くと、途端に価値のあるモノに見えてくるから不思議です。
この企画は、たくさんの意見より誰かの偏った意見(N=1)の話を聞いてみようというものです。今回取り上げるのは、土人形の窯元「丹嘉」の伏見人形。それでは早速、偏愛の旅へどうぞ。
語る人

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などのビジネスプロデュースや経営コンサルティングに従事。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、「100本のスプーン」のリブランディングや新業態開発等も行う。入場料のある本屋「文喫」や東京ミッドタウン八重洲内の「ヤエスパブリック」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。
今で言う
ソフビのフィギュアです
まず僕はモノが好きなんですね。アート的なモノも好きなんですが、古い土器とか民芸とかアノニマスなモノの方が好きなんですよ。伏見人形は郷土玩具で民芸の中でもちょっと特殊です。
「デザイン」って割り切って言うと課題解決なので、ある種、有用性があるじゃないですか? 一方「アート」というのは個人の意思みたいなものが形になっていますよね?
郷土玩具はと言うと、その中間なんですよね。日用品のように明白な機能があるわけではない、かといって特別な個人の思いがあるかっていうと、そうでもない。ただ脈々と続いて今に至っているんです。

僕が面白いなと思うのは、これを最初に作った人は何を考えていたんだろうって想像する余白が無茶苦茶に大きくて。そういうのを想像すると、すごく楽しいんですよ。
郷土玩具ですから当然、子どものおもちゃとして親しまれてきた。だから今でいうフィギュアに近い存在ですよね。無用物といえばそうだし、かといってアートではない。アートになると飾るもののようになるけれど、あくまで遊ぶものであり消耗品なわけで。郷土玩具は愛でたり、遊んだりする対象。僕はそんな風に捉えています。
スキだらけだから
スキになってしまう
丹嘉の伏見人形との出会いはこの「獅子舞」です。パソコンで調べ物をしていたら、たまたまこの獅子舞を見つけて、「うわあ、なんだこれは!」って、もう衝撃でしたね。

もう、デフォルメ具合がすごくないですか? 今のゆるキャラとかの感覚にすごく近くて。これ今の人が作ったんじゃないの? って思うぐらいのデザイン性で。でもこれ、江戸時代からそのまんまなんですよ。
素材は土ですから、陶器などに比べると当然造形は甘くなりますよね。加えて大量生産しなければならなかったから細かい細工ができるわけじゃない。造形も絵付けも簡略化されて結果的にデフォルメされるワケです。
子どもの玩具だから均整がとれて綺麗すぎるのも合わない。頭が大きいとかアンバランスな方が愛でてもらいやすい。それでいて神秘性のようなものもちゃんと残している。
きっと天才デザイナーが当時いたんだろうと勝手に想像しています。

丹嘉が素晴らしいのは“バランス”なんですよ。アートに寄り過ぎると生活者との距離が遠くなってしまう。デザインされ過ぎると今度はあざとさを感じる。かといってプリミティブ過ぎて荒くなってもダメ。いい意味で隙がある状態でバランスが取れている。そこに僕らの感情が入り込む余地がある。だから好きになっちゃうんだと思います。
伏見人形 丹嘉
野崎コレクション

伏見人形は今、10体以上持ってるかな。僕はよく人にあげちゃうんですよね。お祝いとか記念品として。伏見人形を見ると手に入れたくなって、ひとまず買う(笑) で、家に置ききれなくなってきて、誰かにプレセントしちゃうんです。

最初に3体購入したんですけど、この裃を着たサルはその一つですね。伏見に行った時に丹嘉の工房で手に入れました。この頭がすごく好きで、ツヤツヤなんですよ。ついつい触りたくなる質感ですよね。顔は結構赤くて、ちょっと怖さもあって、そこも気に入ってます。

この狐も最初に購入したものです。なんかいいんですよね、このメタボ感が。お腹とか太ももとかもちょっとムチムチしてて、マヨネーズのようなフォルムが好きですね。

最近の一番のお気に入りはこの大黒さんです。自宅の棚の真ん中に置いてます。でも、購入したばかりの頃はそこまで気に入ってなかったんです。なんだか堂々とふてぶてしくて。でも最近この子がよく見えてきた。袖まくってるところとか、いいじゃないですか。好きじゃないところから入ったけど好きになっちゃって。恋愛と一緒ですね。

この虎は白と黄があるんですけど、黄色じゃなくて、僕は白の方に惹かれて。ホワイトタイガーに。でも見ているうちに、2体いた方がいいんだろうなと思ってきて(笑) この子もめっちゃ好きなので、目に入るところに置いています。
丹嘉は遊ぶために作られたものなので、飾るというより置いておく、くらいの方が僕はいいと思っています。こんな風に人形同士を向かい合わせたっていいし。こうするとなんだかストーリーが生まれてきそうに思いませんか? 丹嘉を手に入れたら、是非こうして妄想したり、遊んだりしていただきたいと思います。

photo / oana
text / nagai
NEWS
丹嘉 black label 登場

伏見人形の魅力は「造形」と「彩色」ですが、そのうちの「造形」に焦点をあてた「丹嘉 black label」をPASS THE BATONオリジナルプロダクトとして販売します。伏見人形を大胆にも黒に塗りつぶしてみる。すると、隠れていた造形美が浮かび上がってきます。
PASS THE BATONが開催するマーケットイベント「PASS THE BATON MARKET」vol.17 2024.12.14〜15 @ KOKUYO SHINAGAWA THE CAMPUSで限定販売致します。