TRUNK SHOW #04

足元のオアシス
「偶然サンダル」

やっぱり今年もやってきましたね、ナツ。今日も最高気温35℃!
もはや私たちは熱帯に生きている?そんな気にすらなってきます。

それにしても最近長くなってません?ナツ。6月から30℃超えなんて、一体どうなっちゃうんでしょう。夏はどんどん暑く、そしてどんどん長くなる。それでも私たちはサバイブしなきゃいけない。そんな過酷な夏の日々をともにしてくれるのが足元のオアシス、サンダルです。

ご紹介するのはマーブル模様のサンダル。製造の過程で偶然生まれちゃうこのアイテムは、サンダルメーカー「丸中工業所」のもので、奈良の風変わりなサンダル屋さん「川東履物商店」はこれを”偶然サンダル”と名づけて販売しています。PASS THE BATONではかつては通常の流通から外れてしまっていたこのサンダルを、セレクトしてご紹介しています。

RELIGHT

偶然できたサンダルに
偶然出会いました

マーブル模様のサンダルを「偶然サンダル」として販売するのは奈良のサンダルブランド「HEP」を展開する川東履物商店。誕生の裏側を聞きたい! ということで、奈良・大和高田市にある直営店「ヘップランド」を訪ねました。迎えてくれたのは四代目で代表の川東宗時さん。

さわやかな笑顔で、さわやかにのれんをくぐって出迎えてくれる川東さん

この日も30℃超えの暑さ...…折角なので我々、取材チームもサンダルに履き替えて、気持ちも涼やかに取材スタートです。

「最初はサウナや銭湯グッズとして丸中工業所さんのサンダルをカスタムして販売してたんです。そんな中、ある日、丸中さんに行くとマーブル模様のサンダルがあるって聞いて。規格外品が偶然できちゃうっていうのを知りました。それが、偶然の始まりでした」(川東さん)

偶然は偶然を呼ぶのでしょうか? 偶然できるサンダルに偶然出会った川東さんに、偶然出会った私たちが話を聞いている。

「見た瞬間にかわいいサンダルだなと思って。あと意図せず生まれてしまうというのも面白いストーリーだなあ、と思って扱うことにしました。それが2022年くらいのことですね」(川東さん)

「実際にお客さんに見てもらう機会を作って試してみたら、一点ものなんで選ぶ時間が長いんですよ。ジャケ買いみたいな買い方する人もいて。普通とは違う買い物体験が生まれるんやなあって感じて、これはちゃんと伝えようと思ったんです」(川東さん)

こうして、偶然生まれたサンダルは「偶然サンダル」というストレートすぎるネーミングで商品化されます。でもよく考えたら、一点ものだからお客さんと商品の出会いも偶然。作るも偶然、出会うも偶然、これはまさに偶然づくしのサンダルです。

偶然サンダル専用のオリジナルシューズバッグをさわやかに見せてくれる川東さん

「うちでは年間で500〜800足ほど扱っていますが、本当はもっとたくさんの方に知って欲しいなと思ってます。意図してできたものではないんだけど、見方を変えると価値がある。それを面白がってくれる人が増えるといいですね」(川東さん)

真新しいものを作るのでなく、今あるものを再解釈して届けたいと語る川東さん。サンダルを履いて、川東さんの話を聞いているとなんだか心がスーッと涼しくなってきます。

一期一会の出会い、世界にひとつだけのマーブル模様。思いがけない「偶然」を履いて、この夏を過ごしてみてはいかがでしょう。

BACKBONE

シンクロニシティ 〜偶然の一致〜

マーブル模様のサンダルはどうして生まれるのか?
次に伺ったのは「ギョサン」や「ベンサン」と呼ばれるサンダルを製造する奈良県・御所市のメーカー丸中工業所さん。対応いただいたのは2代目で代表の中井良洋さんと、3代目の中井良光さん。いざ、サンダルの深淵へ。

まずはツーショットをパシャリ。
左が代表の中井良洋さん、右が3代目の中井良光さん。親子で並ぶと表情がキリっとするが、お二人とも物腰はとても柔らかい

「まず工場を見てもらいながら説明しましょか。もともとサンダル製造は、このあたりの地場産業でね、昔は300軒くらいサンダル作ってるとこあったかな。それが中国製品に押されて、今は5〜6軒くらいになってます。うちは射出成型っちゅう製法で作ってます」(良洋さん)

射出成型は加熱して柔らかくなったビニールを金型に押し出して成型する方法。イメージしづらい方は、熱いチーズを型に絞り入れて冷まして固めるイタリア料理を思い浮かべてください(そんな料理はきっとないですけれど)。

この製法だとソールと鼻緒を一体成型できる。つまりパーツを組み合わせる必要がない。ということは、継ぎ目なく作れるので、丈夫で長持ちするのはもちろん、工程やラインも少なくて済むので安価に生産できるんです。

「この製法はうちの父が始めたんです。もともとスリッパを作ってたんですけど、ある日、大阪の見本市に行ったら射出成型の機械が展示されてて“これでスリッパ作れるんちゃうか?”ってピンと来たみたいです。

その足で金型屋さんに相談しに行ったらね、もう一軒この地区のサンダル作ってる会社さんがあるんですけど、そこの方も同じように見本市行って、その金型屋さんに相談に来てたらしい」(良洋さん)

すごい、偶然の一致! シンクロニシティ? いや、サンダルだからサンクロニシティか?
1950年代の話だそうで、おそらく当時は日本中でそういうイノベーションが同時多発的に起こっていたのかもしれません。

「やすい」「じょうぶ」「すべらない」の三拍子

「作ってるのは業界では“カリプソ”とか“防寒サンダル”とか言うんですけど、みなさんには“ギョサン”とか“ベンサン”の方が通じるかもわからないですね。ギョサンは小笠原の漁師さんがそう呼んだんですよ。使う方たちがね、名前つけて呼んでいらっしゃるんです」(良洋さん)

使う人たちが愛称をつけるというのは面白い! いわゆる「カニカマ」とか「写メ」とか、使う人が名づけるようなことでしょうか?

話を戻すと、一体成型のサンダルは船の上でも滑らない、そして丈夫で安価ということで1970年代くらいから小笠原の漁師さんの間で使われていたそう。そんな中1990年代に小笠原の父島漁協が特注で白いギョサンを販売したところ、観光客のお土産として人気を呼び全国に広まっていった。

「白ギョサンの発注がきた時のこと覚えてますね。500足やったかな? 結構な量やから。それまでは地味な色が多かったけど、白ギョサンができてから女性にも履いてもらえるようになった」(良洋さん)

ギョサンは市民権を得て、やがてアパレルの業界からも声がかかるように。二代目の良洋さんは「カラフルなサンダルの時代がくる」と踏んでカラーバリエーションを増やしたのだそう。

いざサンダルの製造現場へ参りましょう

それでは、製造の現場を見せていただきましょう。ここからは写真を中心にご覧ください。

これがサンダルの原料になる塩化ビニルのペレット。耐水性、加工性、耐候性、強度に優れ、かつ軽量、滑りにくく......とにかく優れた素材です(汗)

射出成型の機械。まず、機械がビニールのペレットを吸い上げる、その後ビニールに熱が加えられ、柔らかくなったところで金型に射出される。

するとほんの数分程度でサンダルができてしまう! これ伝わりますかね? 
残念ながら金型はお見せできないので、工程を端折ってはいるものの、
本当にシンプルな工程なんですよ。あっという間にサンダルが出てくる。

どんどんサンダルができあがってくる! バリと呼ばれる余分な突起物をカットするとほぼ完成形。この後、一部製品はコーティングの工程へ。こちらは動画でお楽しみください。

脳内で「ヴィヴァルディの春」を流しながらご覧ください。

ついにマーブル登場

製造の流れを一通り見学させていただいきましたが、マーブル模様のサンダルは一体どうやってできるのでしょう?3代目の良光さんが教えてくれました。

「ペレット一袋で大体40足くらいできるんですけど、ペレットの色を変えるタイミングがあるんです。例えばピンクの後に赤のペレットに切り替えるみたいな。その時に、ピンクのビニールが残って、次に入れた赤のビニールと混ざるんです、そこで天然のマーブル模様ができるわけです」(良光さん)

なーるほど!(スタッフ一同)

「こういうスクリューでビニールを押し出すんですけど、このスクリューにビニールが絡まりながら混ざるんでマーブルになるんです」(良光さん)

そうこうしていると、ちょうどペレットが切り替わるということで、みんなで待つことに。
一緒に見学に立ち会っていた川東履物商店の川東さんもマーブル色が出てくる瞬間は見たことがないらしい。

良光さんと談笑しながらマーブル登場を待つ川東さん。良光さんと川東さんは同じ地域の同世代、業界の未来を背負っている

さて、いよいよ切り替えのタイミングです。それではまた写真を中心にご覧ください。

ペレットがピンクから赤に変わる。本当にマーブルになるのだろうか。ドキドキ......

「おお! 出たー!」
出てきた瞬間まるでスター登場のような歓声が。ピンク&レッドのマーブルになってる! ほら、わかります?

並べてみるとグラデーション! お見事そしてかわいい! コングラチュレーション!


「昔からこういうマーブルのサンダルはできてたんです、せやけど、ベージュとか茶色とかやと、あんまりきれいじゃないんです。それがカラフルなのを作り始めたら綺麗なマーブルのができてね、それで、もったいないと思ってストックしてたんです」(良洋さん)

通常は色指定で発注が来るので、かつては天然のマーブル色は通常の流通から外れてしまっていました。しかし、川東履物商店さんをはじめとしたバイヤーさんの目に止まり、“一点ものの面白い商品”ということで市場に登場することになります。
色を切り替える時にだけ偶然生まれるマーブル模様。でもその偶然が、唯一無二の魅力になったのですね。貴重なお時間を割いてサンダルについて教えてくれた良洋さん、良光さん本当にありがとうございました。

最後にお二人にお気に入りのサンダルを聞きました。良洋さんは朝の散歩に履くオレンジのギョサン。良光さんは黒のサボ。夏も冬も仕事中はいつもこれを履いているのだそうです

というわけで、PASS THE BATON ONLINEでは数量限定で「偶然サンダル」を取り扱います。この夏だけの偶然の出会いをお楽しみください。

photo / oana
text / nagai

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