〜 見逃しアイテム再放送 〜

CIOTA✕SIERRA DESIGNS
マウンテンパーカー 編

突然ですが、名作アイテムってありますよね?
天童木工の「バタフライスツール」やadidasの「サンバ」。今でこそ誰もが知る不朽の名作ですが、実は、発売当初はあまり売れなかったといいます。

あの名品が、なぜ売れなかったのでしょう?
「地味かも?」と見逃された、「ちょっと変わってる」と敬遠された、などと言われてはいますが、でもそれって、価値が分かる人と出会えなかっただけなんじゃないかと思うんですよね。

知ってほしい人に情報が届かなかった。
まだ見ぬ運命の人に気づいてもらえなかった。
捨てる神あれば拾う神あり、価値を感じるものは人によって違うから、ひるがえって言うと、どんなモノにも誰かにとっての価値があるはず。
そう信じているPASS THE BATONです。はい。

この企画は、PASS THE BATONの中の人が見つけた“まだ出会うべき人に出会えていない”片思いアイテムを発売から時を経た今、再び紹介するというもの。

今回の主役は、岡山に本拠を置くファクトリーブランド「CIOTA(シオタ)」と、アメリカ・カリフォルニアのアウトドアブランド「SIERRA DESIGNS(シエラ デザインズ)」のコラボによるマウンテンパーカーです。

CIOTAがこだわり抜いて作ったオリジナルの生地を、SIERRA DESIGNがアメリカの工場で縫製したマニア垂涎の逸品。なのに、まだデッドストックがあるんです。これはもう出会い待ち5秒前、というわけで、あらためてこの名作の魅力をお届けします。

RELIGHT

誰かと出会うと
こうなります

オーバーサイズでラフ&プレッピーにまとったり

ド定番スタイルでワークしたり

シック&エレガントにまとめたり

さらりと羽織って散歩に出かけたり

さあ、あとは出会うだけ。
マウンテンパーカーとの出会いは、
新しい自分との出会いでもあります。

BACKBONE

知っておいた方がいい!
「60/40 マウンテンパーカー」の話

CIOTA✕SIERRA DESIGNSのマウンテンパーカーはどうやって生まれ、そしてなぜデッドストックが生まれたのでしょう? CIOTAディレクターの荒澤さんにお聞きしました。

お伺いしたのは東京・代々木にある路面店「CIOTA TOKYO」。

カウンター越しのCIOTAディレクターの荒澤さん。物腰は柔らかすぎるくらい柔らかい方です

と、その前に。
まずはSIERRA DESIGNSのマウンテンパーカーについて、少しだけ豆知識をお話ししておきたいと思います。知っておいて損はないので、しばしお付き合いください。

SIERRA DESIGNSの物語は1965年に始まります。舞台はカリフォルニア・バークレー。
アウトドアショップ「スキーハット」で働いていた二人の青年、ジョージ・マークスとボブ・スワンソンは「自分たちが信じられるギアをつくろう!」とブランドを立ち上げます。

そして3年後の1968年。
彼らが世に送り出したのが「60/40 マウンテンパーカー」です。横糸にコットン60%、縦糸にナイロン40%を用いることで、濡れるとコットンがふくらみ、ナイロンをぎゅっと圧縮して水を通さない、という自然の理にかなった防水ジャケットが生まれました。“機能もルックスも完璧”なアイテムとしてアウトドア愛好家の心をつかみます。

ジミ・ヘンドリックスあるいは
ブライアン・イーノみたいな洋服

さて、いよいよ荒澤さんにお話を伺いましょう。

「株式会社シオタは1960年代から続くデニムやワークウェアの縫製工場だったんです。ちょうど今の代表に受け継がれるタイミングで新しい展開を検討していたところに、『それならブランドを作りませんか』とお話して、一緒にCIOTAブランドを立ち上げることになったんです。2019年の秋冬からですね」(荒澤さん)

荒澤さんは20年アパレルメーカーに身を置き、8つのブランドを渡り歩いてきた猛者。デニムとワークウェアを中心にしたブランドに携わるなかで「着心地が良くて上質なものって、ありそうでない」と感じ“ないならつくるの精神”でブランドを立ち上げます。

「着心地は最上のものを、と考えて素材はスビンコットンオンリーのラインナップで始めました。ただの“上質なコットン”だと抽象的なので、根拠のある素材としてスビンコットンを使うことにしたんです。キャリアの中でさまざまなコットンを見てきましたがスビンコットン以上のものはないと思っているので」(荒澤さん)

スビンコットンは、インド原産の「スジャータ」とカリブ海産の「シーアイランドコットン」を交配して生まれた繊維が細かくて長い最高級のコットン。シルクみたいな滑らかな肌触りと光沢に加え、耐久性も高いというスペシャルな素材です。

「CIOTAでは本質を突いた、普遍的なものを作りたいと思っていて。テクノロジーがどんどん発展してデジタルになっていきますけど、僕はそこにリアリティーを感じなくて。音楽で言うと、ジミ・ヘンドリックスみたいなモノを作りたいんです」(荒澤さん)

なるほど……ジミ・ヘンドリックス……
すみません、もう少し詳しく教えていただけますか?

「(笑) ジミ・ヘンドリックスって有無を言わせない“理屈抜きの良さ”があると思うんです。もちろん、好き嫌いはあると思うんですけど、嫌いな人でも『ジミヘンはちょっと別格だよね』みたいな。そういう普遍性のようなものを体現するブランドにしたいと思っています」(荒澤さん)

店内にはJBLの巨大スピーカーが。CIOTAというブランドが音楽を始めとしたカルチャーの影響を受けていることが伝わってきます

「僕は“デザインのど真ん中”をやりたいんです。だけど、アパレルメーカーにはど真ん中が意外と少ないんです。ど真ん中とは定番みたいなもの。メーカーで定番みたいなものを出そうとすると『もう少しこなしてくれ』って言われたりする。イギリスに“皆が机を囲んで馬をデザインしようとするとラクダが出来上がる”という意味の格言があって、まさにそれが起こってしまうんです」(荒澤さん)

ラクダがウマ?気になって格言を調べると、なるほどありました――“A camel is a horse designed by a committee.”つまり「全員の意見を取り入れると、かえって奇妙で非効率なものができてしまう」という皮肉だそうです。

荒澤さんの言う“デザインのど真ん中”、もう少し知りたくて聞いてみました。

「デザインのど真ん中ですよね。これがまた難しい言い方になるんですけど(笑)ど真ん中って言いながら、僕の場合ちょっとズレていて。音楽で言うとチャートの1位にはなれなくていつも何年も30位くらいにずっといる人。そういう人って実はど真ん中だと思うんです。1位の人も真ん中かもしれないしその時は売れたかもしれないけど、10年後いるかどうかわからない」(荒澤さん)

また音楽での例え、ありがとうございます。
なるほど、一瞬で消費されるものではなく普遍性のあるものが荒澤さんの言う“ど真ん中”ということなんですね。

「他のミュージシャンで言うと、ブライアン・イーノもそう。この方はもともとロキシー・ミュージックっていうバンドにいて、その後、アンビエントテクノにシフトして、プロデューサーとして活動するんですけど、それでも理屈抜きに良い仕事してるんです」(荒澤さん)

おもむろにレコードでロキシー・ミュージックを流してくれる荒澤さん。お話の途中ですが、一旦聴きましょう

店内にとても柔らかい音でロキシー・ミュージックが流れます。
ブライアン・イーノ、確かに理屈抜きにいいのでした。

やるだけやりきった
マウンテンパーカーの話

最後にマウンテンパーカーについてのお話をお聞きしました。

「このマウンテンパーカーは“アイビー”をテーマにした2023年の春夏のコレクションで出したものですね。ずっとミリタリーとかワークウェアをやってきたんですが、僕はアイビースタイルで育った世代で、どうしてもアイビーアイテムを出してみたかったんです」(荒澤さん)

半期ごとにテーマを掲げてコレクションを展開するブランドが多い中、CIOTAでは通常テーマは掲げず、“アイビー”が唯一のテーマだったそう。当時の気合いが伝わってきます。

「なかでもマウンテンパーカーは一番の自信作です。SIERRA社と縁あって協業できることになったんですけど、このパーカーの60/40クロスはCIOTAのオリジナル生地を使っています。もちろんコットンはスビンコットンを使っていて、オリジナルより滑らかです。生地を国内で織って、それをアメリカに輸出してSIERRA社の工場で縫製してもらって、それをまた日本に輸入するっていう」(荒澤さん)

日本で生まれて、一度アメリカに渡り、洋服になって帰国する――越境系アイテム。

「学生時代にSIERRAのマウンテンパーカーを着てたんですけど、それに“CIOTA 60/40”のネームが入ってる。これが僕の中では本当に嬉しくて」(荒澤さん)

そう言って微笑む荒澤さん。
ただ、こうした新しい製品を展開するのも、ブランドにとっては大変な冒険なんだそうです。

「クオリティーを担保しつつ、お客様に手に取っていただけるような価格で提供するには、それなりの量をつくらなければいけないんです。CIOTAの生地は全てオリジナルで制作していますし、経済ロットに乗せるには自ずとリスクが生じます」(荒澤さん)

経済ロットとは発注費用と在庫維持費用が最も少なくなる発注量で、経済ロットで生産すると一着あたりの価格はおさえられる一方で在庫を抱えるリスクも生じます。

「シンプルに言うと、このマウンテンパーカーは誤算でした。もっとお客さんに伝わると思っていたものがそこまで伝わらなかった。デッドストックが生まれたのもそれが理由です。本気で作ったものなんですけどね」

とても素直なお話……聞けば聞くほど名作と言えるモノであることはわかるんですが、それでも売れないということがあるんですね。

「たまにこう、自分の想像以上にものが売れたりして、戸惑う時があるんです。でも、このマウンテンパーカーは、自分がやるだけやったから、他に評価されなくても満足はしてるんです。ビジネスとしては失敗だとしても、ものづくりとしてはやりきってて。CIOTAのメンバーからすると『おい、おいっ』ってつっこみが入るとは思いますが(笑)」

荒澤さんが潔く“やりきった”と話すアイテム、それを見て、そのお話を聞いて、このマウンテンパーカーがすっかり好きになってしまっていました。世界のどこかには、同じように、このマウンテンパーカーの価値に気づく人がいるはず、そう信じてこの商品を皆さんにご紹介したいと思います。
貴重なお時間を割いてお話してくれた荒澤さん、本当にありがとうございました。

というわけで、PASS THE BATON ONLINEではこの秋から「CIOTA×SIERRA DESIGNS MOUNTAIN PARKA」を取り扱います。カラーはbeige、blue、green、blackの4色展開。価格は44,550円(税込)で販売します。数量は在庫限りとなりますのでお見逃しなく。

writing / nagai
photo / oana

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