TRUNK SHOW #05

かぶるフェイラー
「Chenille Jet Cap」

このプロダクトはある一人の願いから生まれました。

「私、フェイラーを着たいんです......」
そう語るのはPASS THE BATON MARKETのディレクター、休場(やすば)さん。

フェイラーはドイツの伝統的な織物「シュニール織」のテキスタイルブランド。ハンカチを始め、ポーチやバッグといったアイテムも展開し、日本での販売実績は50年以上。世代を超えて愛され続けています。

熱心なフェイラーファンである休場さんは既にたくさんのアイテムを所有し、この日も(頼んでもいないのに)大量の私物を持参してくれました。いい人。その偏愛はマグマのごとし。好きが高じて、高じきわまった結果、「フェイラーを身にまといたい」と思うようになったそうです。

今回ご紹介するのは、まさに、そんな願いを叶えるアイテム。やむなく生まれてしまうフェイラーの残布で作ったジェットキャップです。PASS THE BATONのオリジナルアイテムとして、千葉の古着屋さん「マグノリア」に依頼し、ひとつひとつ手作りしています。言うなれば“食べるラー油”ならぬ「かぶるフェイラー」。この秋、登場です。

※PASS THE BATON限定商品につき、FEILER(フェイラー)店舗またはオンラインでの販売はございません。

RELIGHT

フェイラーの残布を使った
「手づくりジェットキャップ」

まだシウシウと蝉が鳴く8月。
ちょうどキャップの仕立てが始まった、という情報をキャッチ。残布がキャップになる瞬間、それはサナギが蝶になる瞬間と同じ。ならばこの目で見届けねば! ということで制作現場にお邪魔してきました。

同行したのはフェイラージャパン、執行役員の松島さん、前述の休場さん、そして取材チーム。

東京から車で2時間、目指すは千葉・九十九里浜方面。松尾横芝ICから太平洋へと下る一本道を走ると、突如現れるのがこちら。

カリフォルニアっぽい古着屋さん「マグノリア」

ロードサイドのセレクトヴィンテージショップ「マグノリア」。千葉なのに、あたりに漂うのはアメリカ西海岸の空気感(行ったことないけれど、きっとこんな感じ)。出迎えてくれたのは店長でミシン担当の川島さん。

ちゃっかり20周年記念Tシャツを着て登場する川島さん

「今年でちょうど20年になります。アメリカを中心にヨーロッパのものも少し、ワーク系やミリタリー系の古着も扱っています。」

学生時代から古着にハマり、アメ横に通い詰めたという川島さん。好きが高じて、高じきわまった結果、同級生と二人で古着屋さんを始めたそうです。

「都内とはお客様の層も違いますし、特徴のあるお店にしたいなと思って。そんな時、思いついたのがリメイクです。古着ってボロくて商品にならない、だけど素材がいいものっていっぱいあるんですよ。その素材を生かせないかと、思ってミシンを動かし始めたんです」

ミシンはジーパンの修理からスタート。やがて見よう見まねで古着を使った帽子やシャツなどオリジナルのアイテムを作るようになり、気づけば「ミシンの達人」としてご近所に知られる存在に。

ちなみに取材の帰り道に立ち寄ったピーナッツ工場で「このあたりのおすすめの店は?」と尋ねると「ミシンの達人、マグノリアさん」と紹介されました。本当に有名でした、はい。

このあと残布がキャップに変身します

今回のアイテムはそんな川島さんが、フェイラーの残布を使って、ひとつひとつ手作りしてくれます。さあ、残布がキャップになる瞬間を見せていただきましょう。

カウンターの奥にはロール状の残布が。今回使うのは4種。こちらは「ピックオンニ」という柄。フィンランド語で“小さな幸せ”という意味だそうです。素敵ですね、幸せは小さいくらいが安心できる私です。

できるだけロスが出ないように一枚の布からパーツを切り出す作業は、まるで逆パズル。

次にパーツの縫い合わせ。一つ一つミシンで縫い合わせていきます。ミシンをカタカタと動かす川島さん。すごい!手づくりだ!手づくりジェットキャップだ!

「シュニール織を使ってキャップにするのは正直難しいんですよ。柔らかいし起毛してるんで、縫い合わせの時にズレやすいんですね。芯材を入れることも考えたんですけど、やっぱりこの生地は、柔らかさが良さだから、それは生かしたいと思って」

古着の“くたっと感”を愛する川島さんは、生地の良さをそのまま生かしたいという思いで、あえて難しくて手間のかかる茨の道を選んだのだそう。素材への愛に脱帽です。

こうしてゆっくりと帽子ができてきます。

「1個作るのに大体1時間半〜2時間くらいかかっちゃいますね。1日5個くらいが限界です」

こちらから頼んでおいて恐縮なんですが、すごい時間と手間がかかるんですね......

完成したキャップを見る松島さん。

「柔らかい生地なので、立体的なものとか縫製するのが難しいじゃないですか。だから内心、大丈夫かな〜と思っていたんですけど、ははは。驚きました。とても丁寧に作っていただいてありがとうございます」(松島さん)

「僕らは一から手作業で作るので、たくさんのものを均等に作るのは得意じゃないんですよ。でも、今回はそれをご理解いただいて、柄の取り方も自由にやらせてもらったのは良かったです」(川島さん)

そう、実はこのキャップ、生地のどこが使われているかはバラバラ。ということは、一点一点デザインが違う、世界に一つだけのキャップ、オンリーワンのキャップということになります。

夢が叶った人

残布はこうしてキャップになって、皆さんの元へと羽ばたいていきます。これを一番喜んでいるのは、この方。

ハイジドットのキャップをかぶって嬉しそうな休場さん。似合い過ぎててちょっとこわい

「いや〜テンション上がりますね、一つ夢が叶った感じです!あ〜、どの柄にするか悩む〜」(休場さん)

今回発売するのは「スウィングチェリー」「ハイジドット」「ダズリングオーナメント」「ピックオンニ」の全4種。残布を最大限活かすためデザインの出方はすべてバラバラの一点もの。PASS THE BATONのみでの販売、限定150点です。オンラインでの発売は10月。お届けは1詳細商品ページよりご確認ください。

BACKBONE

ドイツの伝統工芸織物
シュニール織りとは?

フェイラーの残布はどうして生まれるのか?
その事情についてマグノリアさんに向かう道中、松島さんに教えていただきました。
時を戻して、車中トークをどうぞ。

千葉へと向かう車中の松島さんと休場さん。ラジオから「熱帯夜」が流れてきて盛り上がる

「フェイラーは1948年にドイツ・ホーエンベルクで生まれたライフスタイルブランドです。伝統的なシュニール織を使った製品が特徴で、日本での展開は1972年からです」(松島さん)

では、早速シュニール織って、どんな製法なんでしょう?
ここからは、ご提供いただいた写真を中心にご覧ください。

「特徴は毛羽立ったモールヤーンという糸です。一度、平織りして断裁した布を撚ることでこの糸ができます」(松島さん)

まずはモールヤーンを作るために平織りします。糸をつくるためにまず一回布を織るんですね。

そして、布ができたら断裁。
せっかく織ったのに......って思いますよね。でも、これが大事な工程。断裁した糸状の布を高速でスピンをかけてネジネジと撚ると、ふわっと毛羽立ったモールヤーンができて、いろんな良いことが起こります。

そして、モールヤーンを横糸にしてまた織る。するとシュニール織りの生地が完成します。

さきほど触れた「いろんな良いこと」をここで紹介します。モールヤーンは表面積が広く、水分や空気を含みやすく、また出しやすいので吸水性や速乾性に優れています。丈夫でシワになりにくく、洗濯後もアイロン不要!どうです?ほぼ完璧な生地じゃないですか?

「デザインはドット絵の要領でつくっています」(松島さん)

ドット絵が可愛い......特に鳥などが可愛い......このぷくぷく、チコチコしたドット表現が可愛らしさの秘密なのですね。

フェイラーとわたし

ここでファン代表の休場さんにも魅力を聞いてみましょう。

「まず、フェイラーって本当に、丈夫なんですよ。10年くらい使ってもへたれない。あと、私がフェイラーが好きなのは気分が上がるから。毎朝どれにしようかな〜って選ぶんですけど、その時間も楽しい。使う前から気分が上がってます(笑)」(休場)

いつも元気でテンション高めの休場さん。その秘密はフェイラーのハンカチにあったのか。

「わたしのファーストフェイラーは母の棚からこっそりいただいたものなんです(笑)母が黒地に花柄のハンカチを使ってて、それが素敵だなーと思って、つい」(休場)

おばあちゃんのタンスにあったとか子どもの頃の原体験にフェイラーがあって、そのままファンになる方も多いのだとか。なんかわかるなあ。

ここで、おもむろにハンカチを取り出す休場さん。

「これ、今日のマイフェイラーです(笑) 新作の「チャムチャムハイジデイ」のハンカチ。友達にプレゼントでいただきました」(休場)

ちなみにハイジはアルプスの少女とは関係なく、ドイツ語で「急げ急げ」という意味なのだそう。ドイツの野にいる生き物たちが急いで走り回る様子がモチーフです。1999年からずっと続くデザインで、今回のジェットキャップにも「ハイジ」をアレンジした「ハイジドット」が使われています。

どうして残反が生まれるの?

話を戻して、残反が生まれる理由についてお伺いしましょう。
と、ここで、おもむろにハンカチを取り出す松島さん。

「これ、今日のマイフェイラーです(笑) 私、サウナが好きで、サウナのデザインを企画として出したら通りました」(松島さん)

すごい、松島さん企画。ロウリュがあったり、オロポ的な飲み物があったり。たしかにサウナの世界観ですね。

お互いのマイフェイラーを披露し合い、嬉しそうな二人

松島さんのマイフェイラー登場で脱線しかけましたが、話を戻します。

「生地はすべてドイツでつくられています。シュニール織は、織り上げるまでに非常に時間がかかるので、詳細の商品計画が決定する前に原反を発注します。その過程で多少の残反が出てしまう場合があるんです」(松島さん)

「もう一つ、残反が余るケースがあります。それは、定番のデザインが終売になる時。残反が25m程度あれば、ポーチやバッグにして販売できますが、10mくらいの残反だと商品にするには足りないんです。結果、残反が生まれてしまいます。今回のジェットキャップにはそういう残反を使っています」(松島さん)

お話を伺うと製造工程は、ロスが生じないよう、細やかに配慮されていることがわかります。残反が生まれるポイントは2つだけ。しかも、そのロスは最小限です。それでも余ってしまう残反をどうにか活用したいと、今回の企画に共感していただいたのは、とてもありがたいことです。

「フェイラーは上品なアイテムが多いので、帽子にするならハットかな?と思ってたんですけど、仕上がってきたのはジェットキャップ(笑) 正直驚きましたけど、フェイラーをご存知ない方にも興味を持ってもらえるかもしれないですし、これまでフェイラーを応援してくださっている方にも驚きやわくわくをお届けできたらいいなと思っています」(松島さん)

ジェットキャップを被ってポーズをとってくれた松島さんと休場さん。ジャンケンとしては休場さんの勝ち。

松島さん、たっぷりお話をありがとうございました。松島さんもまたフェイラー愛に溢れていて、車中トークはほとんどフェイラー座談会でした。
そして、大量のマイフェイラーコレクションを持参してくれた休場さん。残念ながらタイムアップで拝見できず……またの機会に。

というわけで、PASS THE BATONでは、終売にあたってどうしても余ってしまうフェイラーの残反をジェットキャップに仕立ててお届けします。

photo / oana
text / nagai

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