TRUNK SHOW #01

PASS THE BATON
Remake tableware

Remake tablewareは2013年に発売してから今も続くPASS THE BATONオリジナルのテーブルウェアシリーズです。コンセプトは業務用食器の生産過程でどうしても生まれてしまう規格外品に絵付けしてリメイクするというもの。これまでミナ ペルホネン、イラストレーター元永 彩子、クリエイティブユニットKIGIとのコラボレーションによって、レストランで使われる真っ白な食器に絵付けしたプロダクトをリリースしてきました。

ミナ ペルホネンとのコラボアイテムのなかに「高台マグ」というアイテムがありまして、諸事情により生産をストップしていたのですが、今回それを復刻することになりました。なぜ今復刻なのか、というと1500ピースのマグカップが岐阜の倉庫に眠っていたから。そうなんです、復刻版の高台マグはB品じゃなく、デッドストックをリメイクしたアイテムなんです。

でも、どうして1500もの在庫が残ってしまったんでしょう? そのワケを知りたくて、陶磁器の生産現場にお伺いして、デッドストックが生まれる背景をこの目で見てきました。

皆川明さんがマッキーで描いてデザインしたという、ミナ ペルホネンの「咲いている花にただ笑ふ」シリーズ

イラストレーター元永 彩子さんによる、童話のワンシーンが描かれたテーブルウェアシリーズ「piece of old tale」

PASS THE BATONのロゴをデザインしている、クリエイティブユニットKIGIによるカップ&ソーサーも

BACKBONE

焼きものの世界は
思ったより複雑怪奇だった

訪れたのは岐阜県・瑞浪市の山和陶業さん。創業70年の窯元でRemake tablewareシリーズのボディの大半はここで作られています。瑞浪駅から車で20分、山道をひた走ると大きな建物が現れる。窯元というと陶芸家がろくろを回しているシーンが思い浮かびますが、業務用食器ともなるとワケが違います。思ったより大きな工場です。着いて早々、まずは代表の郷原さんにB品が生まれるワケについて伺いました。

「焼きものは大きく分けると成形、素焼、本焼成という流れで作りますが、各工程で端材や規格外品が発生するんです。成形する際には粘土の切れ端が出たり、素焼きの段階でヒビが入ると規格外品になったりします。ですが、その一部は原料に戻せます」(郷原さん)

陶磁器の生産現場について丁寧に教えてくれた、山和陶業、社長の郷原 崇博さん

“土屋さん”と呼ばれる粘土の専門業者さんの手にかかると、素焼する前の土は約30%、素焼した後は約7%を原料に戻せるのだそうです。

「そして、本焼成する時にもB品が出ます。高温の窯で焼くと粘土は必ず収縮します。その収縮が元で割れたり、欠けたりといったことが起こります。焼成した後は再利用が難しくて、ここで発生したB品はほとんどがロスになります」(郷原さん)

収縮率は原材料や温度によって異なるけれど、おおよそ10〜20%程度。想像していたよりも激しく収縮するんですね。だから窯元では原料ごとに収縮率を管理して、仕上がりよりも大きく成形するんだそうです。例えばミナペルホネンのRemake tableware Plateは仕上がりが21cmなので、26cmで成形する、という具合に。データ管理と緻密な計算によってできていると思うと、眼の前のお皿たちがなにやら凄いモノのように思えてきます。

粘土の端材や規格外品の素焼きは集められて“土屋さん”へと渡される

ぱっと見ただけでは、わからない小さなカケもB品になってしまう

本焼成した後に割れてしまった焼きものたち。再利用するのは困難で大半は廃棄されるという

焼きものを作る際、収縮率とは別の変数がもう一つあります。それが色です。
「焼きものは釉薬で色付けします。釉薬を掛けて窯に入れると化学反応で色が変わるんです。色を制御するのも、また難しいんですよ。窯の上の段と下の段、位置が違うだけで当然温度も微妙に違うので色の濃さが変わることもありますから。色にムラが出るとこれもB品になります」(郷原さん)

窯から出てくるのは24時間後。出てくるまでどんな色になるかわからない。陶芸の世界では偶然が生み出す色こそ芸術だ!と言われますが、工業製品としての焼きものの世界では偶然はとても困ります…

B品イロイロ
個性もイロイロ

工場の中の検品工程を通りかかると、そこにははじかれたB品が佇んでいました。郷原さんに、よく出るB品を教えてもらったのでいくつか紹介したいと思います。

●鉄粉
粘土や釉薬に含まれる鉄分が酸化して表面に出る黒い点。使用には差し支えない。B品として扱われるけれど、ほくろのようで愛らしい。

●カケ
食器のフチが欠けたもの。使用する際に怪我をしてしまう可能性があるため不良品として扱われる。

●ハマカケ
カケの一種で、食器の裏側の底部に欠けがあるもの。怪我の可能性はないためB品として扱われる。

●キレ
焼成した時の収縮によってフチに生じるヒビ。使用できない不良品として扱われる。

●ボロ
窯の中の陶磁器を積み上げて焼くために使う棚板などのチップが製品に付着してできる突起。怪我やワレの原因になるが、リューターで削れば使用できることも。

●色ムラ
施釉や絵付けする焼きものにできる表面的な色のむら。B品として扱われる。

●ピンホール
陶器の表面にできる小さな穴のこと。使用には差し支えないが、B品として扱われる。

B品は見つけられると赤ペンでマークされて、ラインから外されてしまう

鉄粉と呼ばれる黒い点。眺めているとホクロのように見えて、可愛らしくなってくる

B品にもイロイロあって、それぞれに名前があることを知ると、なぜかその名前で呼びたくなってくるから不思議です。名前が付くと親近感が湧くからでしょうか? 後日、Remake tablewareシリーズの中から色ムラとハマカケを発見した時は、「おお、色ムラとハマカケじゃん!」なんて具合に嬉しくなりました。

「製造過程でB品を100パーセント防ぐっていうのは、はい、 なかなか難しいです。うちの場合、昔から白い洋食器をやってるんですが、白いと鉄粉やピンホールが目立つので困ります(笑)
とはいえ、お客さんに出すものですからね、B品が混ざらないように厳しくチェックしています」(郷原さん)

使用に際してケガの可能性があるなど危険なものは別としても、B品かどうかの基準はちょっと厳しすぎないですか? などと思いながらも、その基準は僕たち生活者が作っているものでもあるわけで。一生活者として、もう少し寛容になりたいと思うものです。

九死に一生を得た
ウツワたち

山和陶業さんを離れて次に向かったのは倉庫です。現行品の在庫に紛れて、デッドストックとして眠る食器を見せていただくことに。案内してくれたのは業務用食器を扱うシェルストーンの貝原さん。高台マグの在庫がある、と教えてくれたのもこの貝原さんです。

シェルストーン株式会社 代表の貝原 廣紀さん。焼き物の特性や商流を熟知していて、質問すると笑顔でなんでも答えてくれる

「業務用食器の商流についてお話すると、例えば一つのチェーン店さんが新メニューを開発すると、それに対応するために数千から数万という単位のお皿が必要になります。そして、納品した後も補充のために年間数千から数万ピースは用意しなければなりません」(貝原さん)

一般向けの食器とは桁が違います。新店舗ができたり、破損したりするとチェーン店から都度、発注がくるそうですが、それに応えるには常にストックが必要になります。その数、月に1500ピース程度。それにもう1ヶ月分の余裕をもたせて約2ヶ月分、3000ピース程度は常に在庫しておくのだそうです。

そんな状況の中、メニューの廃止など、なんらかの理由で発注がストップすることがあります。そうすると在庫は死在庫、いわゆるデッドストックとして倉庫に眠ることになります。

「チェーン店さんによっては食器にロゴが入ったりしていて、そういったものは再利用できず在庫は行き場を失います。ですが、中にはロゴを入れる前の状態で在庫しているものがあって、その場合には再利用できる可能性があります。今回の高台カップはそういう在庫です」(貝原さん)

倉庫に眠っていた1500ピースのマグカップ。まっさらな状態で半年くらい眠っていたらしい

このまま見過ごされてしまったら、ずっと眠っていたのかと思うと、本当にもったいない!ケースに入ったまま眠るマグカップを見て、そう感じました。

需要と供給のバランスをとるにはどうしても在庫というバッファが必要になります。サプライチェーンの世界では、こういったバッファを安全在庫と呼ぶのだそうです。商売を止めないという点で“安全”とは言うけれど、一方で死在庫になるのでリスクでもあるわけで。見る角度によって景色が異なることを実感します。

RELIGHT

真っ白なボディに
ミナ ペルホネンの花を添えて

Remake tablewareシリーズの最大の特徴は真っ白なボディです。レストランやホテル向けに作られた食器だから清潔感があって、おまけに耐久性が高くて丈夫。気兼ねなくガシガシ使っていただけ。機能として見ると非の打ち所がありません。ミナ ペルホネンの皆川さんは発売当時のインタビューでこう語っています。

「子どもも大人も楽しめる絵がいいかなと思って、マッキーで描いてます。コバルト色で手を止めながら描いたり、にじませながら描いたり。B品として捨てられてしまうものが繊細な仕事を身まとって再登場、みたいな」(皆川明さん「やりたいことをやるというビジネスモデル」 遠山正道著 より引用)

白い器に絵付けされるだけで全く別種のものとして生まれ変わります。
この器が生まれ変わる瞬間を見に、絵付けをしているセラム工芸さんにもお邪魔しました。

「焼成したお皿に、絵の具で模様を描いたシートを貼って、もう一度窯に入れて1200℃で焼成すると絵が定着します。これが上絵付けという技法です。マグカップもお皿も立体形状なので、シートを貼るのはすべて手作業です」(羽柴さん)

有限会社セラム工芸代表の羽柴 洋二さん。素敵なTシャツが印象的でした

職人さんがひとつひとつ手作業で絵の具のシートを食器に貼り込んでいく

絵の具のシートを貼った食器。この後、窯を通して絵を釉薬に定着させる

上絵付けの技法には絵の具を釉薬に染み込ませるイングレーズと釉薬の上に定着させるオングレーズという2種類の技法があります。オングレーズは絵が剥がれたり、かすれたりすることもありますが、イングレーズは耐久性に優れハードに使っても絵がかすれることはありません。Remake tablewareで取り入れているのはもちろんイングレーズです。

もとはB品やデッドストックでも、こうして手間ひまかけると新たな命が吹き込まれます。絵付けされ高温の窯に入っていくマグカップたちを見ながら、僕は子どもが初めて保育園に出かける時に、見送った時の気持ちを思い出していました。いってらっしゃい!

というわけで高台のマグカップはデッドストックとして残っていた1500ピースのみ。限定生産、限定販売なのでお買い逃しなく。

photo / oana
text / nagai

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